所有権移転の立会をしておりますと、けっこうな割合で権利証を紛失されている売主さんがいらっしゃいます。
あっけからんとした方やパニックになる方などいろいろいらっしゃるのですが、まず言えるのは、権利証がなくても所有権移転登記をする手段は別に用意されているということです。
もちろん、権利証があるに越したことはないのですが、いくら探しても見つからないのであれば落ち着いて次善の策を考えましょう。
相続登記の場合は、被相続人の方の権利証は原則不要です。
これは、そもそも権利証と言うのは、売買や贈与のように登記義務者(形式的にその登記で不利益を受ける者のこと。売主さんや贈与する人のことです)が存在する登記を前提にしているからです。所有権を失うという大きな不利益を受けるため、間違いなく今までの所有者自身が所有権を失うことに同意していますよ、という証明に権利証を添付するわけです。
一方、相続登記の場合は所有権を失う被相続人の方はもうお亡くなりになっていて、当然登記手続に関与しません。このような登記は、相続人が単独で登記するという意味で単独申請と呼ばれるのですが(ちなみに、兄弟など複数の相続人が共有で取得する場合も単独申請と呼びます)、この場合、登記義務者と言うのが存在しませんので権利証も問題とならず、添付する必要がありません。
ただし、例外的に必要となる場合もあります。
相続登記には、被相続人の住所を証明する書類として住民票除票などを添付するのですが、お亡くなりになってから年数が経過しすぎていると役所が廃棄していて、添付できない場合があります。
この場合、登記簿謄本上の人と亡くなられた人は住所の一致が証明できないですが間違いなく同一人物ですよ、という内容の上申書をかわりに添付することになります。この上申書の補足資料として亡くなられた人が所有権者だっただろうと強く推測させる権利証が必要となるわけです。
それでは、この場合に権利証を紛失していたらどうなるのでしょうか。
この権利証は被相続人が所有権者だっただろうと推測させるためのものですので、他の資料で変更がきくわけです。
実務上よく使われるのが固定資産税の納税通知書です。毎年5月くらいに役所から送られてくる細長いヤツですね。通常、固定資産税を納付しているのは所有権者だろうと強く推測されるので、納税通知書で権利証のかわりとします。
このように、相続登記の場合は原則権利証は不要であり、例外的に必要な場合でも固定資産税納付通知書で代替できる形となります。
不動産を売却したり贈与する場合は、権利証が必要になります。
このときに権利証がない場合は、それに代わる手続として「資格者代理人の本人確認情報」という手続が用意されております。
これは、所有権移転登記を申請する司法書士が登記義務者に直接面談し、本人確認資料の原本の提示を受け、コピーをとり、所有権者本人に間違いないか質疑応答をして、それを本人確認情報という形でまとめあげ権利証の代わりに添付して登記申請をするというものです。
このうち本人確認資料というのは法律で決まっております。
一号書類(一点で足りる)
・運転免許証
・外国人登録証明書
・パスポート
・顔写真付きの住基カード
二号書類(二点以上)
・国民健康保険、健康保険、船員保険等若しくは介護保険の被保険者証
・医療受給者証
・健康保険日雇特例被保険者手帳
・国家公務員共済組合若しくは地方公務員共済組合の組合員証又は私立学校教職員共済制度の加入者証
・国民年金手帳
・児童扶養手当証書、特別児童扶養手当証書、母子健康手帳、身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、療育手帳・戦傷病者手帳
であって、氏名住所生年月日の記載があるもの
三号書類(二号書類一点+三号書類一点)
・官公庁から発行された書類又はこれに準ずるものであって、氏名住所生年月日の記載があるもの
以上の書類が必要になります。
実務上多いミスとして、パスポートの期限が切れている、年金手帳に住所の記載がない等がありますのでご注意ください。
本人確認情報による場合は、別途費用や手間がかかり、失礼な質問を根掘り葉掘り尋ねられることになりますので、やはり権利証があるのが一番です。
ご不明な点等ありましたら、お気軽にご連絡ください。